2011年03月14日

野口武彦「安政江戸地震」

今こんなことを書くのは不謹慎かも知れないが、菅内閣の政治的寿命は、この地震で伸びた。そう感じている人は多いのではないか。今政権の交代を声高に叫ぶことは、被災者救援を妨害することになってしまう。地震と被災がこの政権を守りつつある。

 それだけではない。もう官房長官は増税を否定していない。もし私が、首相や財務大臣、あるいは財務省の主計の幹部のような立場にいたら、きっと臨時措置として消費税増税する計画をたて試算をさせるに違いない。名古屋市議選でも、減税日本は過半数を得られなかったとメディアは報じている。地震が政治的懸案を解決するかも知れないのだ。

 天災は大きな政治的変化をもたらすインパクトを持つ。本書は明治維新からかさのぼること13年前の安政2年(1855年)に江戸を襲った、阪神・淡路大震災級の直下型大地震の様相を描き、それが徳川幕府の崩壊に及ぼした影響を論じる。

 大地震は、起きたタイミングが非常に重要だ。昨日触れた1703年の元禄地震では幕府は揺るがなかったが、安政大地震は幕府衰亡のひきがねの一つとなった。巨大な災害は、国に潜在する矛盾を一気に顕在化させるものなのだ。

 今回の地震は、原発ばかりでなく政治・社会のメルトダウンの契機となるのか、それともピンチをチャンスに変えることができるのか。 海外の視線を意識しながら、忍耐の美徳を生きることが我々に問われているのかも知れない。昨日の白石も、武士たる者、忍耐が最も肝心である。我慢できそうにないことから我慢せよ、という古武士の父の教訓を生き、その苦闘を子孫に書き残している。
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2011年03月13日

新井白石「折たく柴の記」

 地震というとまず、白石を思い出す。元禄十六年(1703)11月22日未明、江戸を襲った大地震に際してどうふるまったかを、克明に記している。

 まず刀を取って飛び起き、家の背後に崖があるので、庭に倒れた戸を並べて家族をそこに避難させる。地割れをも警戒したのだ。次に、自身は衣服を改め、供を2、3人連れて藩邸へ向かう。

 冷静に対処する白石も、人の子である。途中で息も切れることがあろうかと薬を用意しながら、家が小舟のように波打っているのに呑まれて、これを忘れてしまう。彼はこれを恥じている。

 湯島の家から桜田の甲州藩邸まで向かう途中、「家が倒壊したら火がでる、火を消せ」と呼ばわる。昌平橋では水が出て、ここを渡ると、草履が重くなったので、新しいものに履き替える。用意周到だ。

 神田橋では、地面のうなる音がして余震が来る。家の倒壊の音や人の叫び声も聞こえる。瓦礫を乗り越え、火の出た藩邸を避難する藩主徳川綱豊にようやくまみえる。

 どうだろう。ダイジェストでもこれほどの臨場感。古典の和文で、このように高い客観性を持った文章は、ついぞ見たことがない。何より、理論におぼれない武士的実用の現実感覚が、儒学者にして将軍ブレーンとなった白石の真骨頂であったことがわかる。

 なお、この文章、子孫への申し送りでもあった。一昨日の地震にもこういう文章を思い出すと、落ち着いて対処できた。
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2011年03月11日

佐伯真一「戦場の精神史」

 著者は、私の見るところ、軍記研究の現役では最前線の人だと思う。平家注釈をライフワークにしながら、中世を超えた軍記の持つ問題領域への関心を失わない人だからだ。

 江戸の軍記などどという研究領域になっているのかどうかあやしい、茫漠たる対象を調べ出すと、随分佐伯氏の仕事のお世話になった。本書もまたその一つであり、最も一般向けに書かれたものでもある。

 副題は「武士道という幻影」帯文は「サムライは嘘つきだ。」本書を読めばわかるが二重の意味で嘘つきなのである。そもそも本来武士の世界にフェア・プレイ精神などない。「孫子」の冒頭に「兵は詭道なり」とあるように、謀略・虚偽当たり前なのだ。

 それが、いつからフェア・プレイ精神のように理解されるようになったのか。その芽生えに「葉隠」などが上がってくる。平時の武士は無用の存在だ。そこに倫理性が要求されてくる。近代になると「戦争の大義」が必要になってくるから、その中から使えるものを抜き出してくるのだ。

 もちろん、佐伯氏は昨日の小池氏の論に拠っている。
posted by 雑食系 at 10:08| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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