2011年03月13日

新井白石「折たく柴の記」

 地震というとまず、白石を思い出す。元禄十六年(1703)11月22日未明、江戸を襲った大地震に際してどうふるまったかを、克明に記している。

 まず刀を取って飛び起き、家の背後に崖があるので、庭に倒れた戸を並べて家族をそこに避難させる。地割れをも警戒したのだ。次に、自身は衣服を改め、供を2、3人連れて藩邸へ向かう。

 冷静に対処する白石も、人の子である。途中で息も切れることがあろうかと薬を用意しながら、家が小舟のように波打っているのに呑まれて、これを忘れてしまう。彼はこれを恥じている。

 湯島の家から桜田の甲州藩邸まで向かう途中、「家が倒壊したら火がでる、火を消せ」と呼ばわる。昌平橋では水が出て、ここを渡ると、草履が重くなったので、新しいものに履き替える。用意周到だ。

 神田橋では、地面のうなる音がして余震が来る。家の倒壊の音や人の叫び声も聞こえる。瓦礫を乗り越え、火の出た藩邸を避難する藩主徳川綱豊にようやくまみえる。

 どうだろう。ダイジェストでもこれほどの臨場感。古典の和文で、このように高い客観性を持った文章は、ついぞ見たことがない。何より、理論におぼれない武士的実用の現実感覚が、儒学者にして将軍ブレーンとなった白石の真骨頂であったことがわかる。

 なお、この文章、子孫への申し送りでもあった。一昨日の地震にもこういう文章を思い出すと、落ち着いて対処できた。
posted by 雑食系 at 00:38| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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