2011年04月06日

菅野覚明「武士道の逆襲」

 言葉の来歴の中には、土のように地味ながらいつまでも日本語の基礎を支えるような言葉もあれば、水のように形をかえつつ、拡がりをみせて心にしみわたり、汚れを洗い流すものものある。

 「武士道」という言葉は、形は変えるが「火」のようだ。戦場の勇気や名誉を支えるものであったものが、平時の忍耐のなかで燃える情熱にかわり、やがて、国民をまとめるシンボルとして、ついに海外にまで知られるようになる。本書は、その過程を適切な用例で解説した。

 燃え移るものによって、火は大きくもなり、色までかわり、扱いを間違えば、人間が作り出した火(日)である原子炉のように大やけどもする。

 火を説明するには、火を盛んにする方面と、火を管理する方面との、両方からの視点が必要だ。とかく、武士道は盛んにする方法ばかりが目を引きやすいが。
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2011年04月05日

三森ゆりか「外国語を身につけるための日本語レッスン」

 よく同僚の英語の先生から、学力低下を嘆くとき、英語以前の日本語に問題があります、と言われる。それが特にはなはだしくなったと感じられるのは、ここ5年か。

 ゆとり教育だけではない。おそらくゲームと携帯が大きい。これだけで本を読まない、読んでもファーストフードのような本だけを読んで、読んだと思っている学生が圧倒的に増えたと思う。

 文部科学省も、あわてて大学に学士力を求め、その中には文章表現力を含めている。さて、その対策という時、読書習慣という大きな問題もあるが、本書で展開しているような教育も、大切だと思う。

 欧米では、小学校から大学まで、徹底的に書かせる。特に日本の国語教育と異なるのは、主語を意識し、「あれ」の中身を認識し、質問の内容を具体的に考え、5W1Hを明確にし、根拠を明確にする言語習慣をつける意識が必要だ。

 そのうえで、「対話」と「説明」の技術を実地に学んでゆく。要は言葉を使って思考法を鍛えてゆくのだ。文学研究の先生は、そんな授業は面白くない、という。それはよくわかる。説明は芸術の敵だ。しかし、言葉の基礎は明らかに、前者にある。

 ご自分の子供にはやらせてみようと思いませんか?就職できない大学院生には、これも勉強しておけと言いませんか?そんな答えが頭をよぎる。
posted by 雑食系 at 08:38| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年04月04日

苅部直・片岡龍「日本思想史ハンドブック」

 企画力が際立つ本としては、近年最高のものと評したい。専門的な最前線の知識を一般に紹介する。言うは易く、実行は大変な困難を伴う。本書は見事にそれを果たしている。

 まず出版編集者への説得が必要。彼らが伯楽でないと、つまりいい本が想像できる力を著者から読み取らないといけない。新書館には、他のシリーズを見ても、いい編集者がいるようだ。

 次に企画の力、それは着想だけでなく、仲間を吸引する魅力を普段の仕事から発揮していないといけない。また、同志を見抜く力、これが必要だろう。苅部・片岡の両氏は、雑誌「大航海」でも対談しているが、まさに学界で油の乗り切った、しかも外に発信するものを持っていることがわかる。

 次に実行力。これは、強さ・優しさ・抜け目なさが必要だ。斬新な企画は、返り血を浴びやすい。敵になる可能性の相手が出やすい。そこで、仲間にも論敵にも、優しさが必要だ。手心を加えるのではなく、武士の情け、というべきか、戦うマナーと言うべきか。また、きちんと締切が守られるよう、当初から抜け目なくストーリーを読んでおく必要もあろう。学生時代、ある頭のいい先輩に教えられた。大を動かすには、大が抱えている小をさりげなく、引っ張り込むのだ、と。

 具体的には、すっぽかしたり、放り出したりする大先生には、大切な友人や後輩・弟子を指名してもらい、両方に仕事をお願いするのだ。大先生は面子もあるし、義理もできて放り出せない。

 本書がそうして出来上がったかどうかは知らない。だが、序跋を書いた編者のお二人からは、切れ味と同時に優しさとタフさが垣間見える。こういう40代の研究者を中核に持つ学界は幸せな場だと想像される。

 
posted by 雑食系 at 00:19| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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