2012年05月04日

江戸の南朝研究

 まだ書籍化には至っていないが、そういう可能性を秘めた動きが、論文のなかにはある。単発ではない動きにこの春接したので書き留めておきたい。

 勢田道生氏は、中世の研究者だが、南朝についての江戸期の研究の実態を、水戸学以外から着実に掘り起こして注目に値する。「「北畠准后伝」と神戸能房編「伊勢記」」(「語文」97)は、両書の前後関係の考察を通して、北畠親房の末裔で、軍記・伝記作成と有職学を兼ねた浪人能房の学問的位置について論じる。

 武家官位やそれにまつわる有職への需要を満たしつつ、先祖の顕彰を書物作成で行っていた能房の学問のありかたは、同時期の軍記作者と同じ位相にある。

 勢田氏には、近世中期に成立した「南朝編年記略」「南朝紹運録」の編者、津久井尚重の学問と人的ネットワークを明らかにした「津久井尚重の研学と交流」(「詞林」50)もある。

 やはり有職学を基盤としながら、南朝史や山陵研究まで及び、馬琴や塙保己一も珍重した高度な成果を残した人物とそのネットワークは、19世紀になって水戸学や国学に収斂されていく以前の、江戸期らしい南朝研究の実態を明らかにした功がある。

 武家が最大の学問のスポンサーであるならば、武家有職と軍記制作は過去を学ぶ学問の中心にあり、日本思想・国史・国文がむしろその補助学だったのではないかというのが、江戸の実態だったと考える私の立場からすれば、大変貴重な成果である。

 こういう研究が、近世の研究者から出てこないところに、近世への見方の一面性を我々も反省すべきなのだろう。昨年末、佐伯真一さんに誘われて、青山学院の対外軍記のシンポに出ても同じ感想を持った。勢田氏の論文には、大阪大学の近世の研究者飯倉洋一さんからのアドバイスがあったのではと思わせる部分が散見し、いい指導の体制が敷かれているなあと感心しきり。

 折しも、実録研究の高橋圭一氏から、日夏繁高「兵家茶話」の翻刻(上)(「大阪大谷国文」42)が届く。この書物は、写本軍記の収集から進んで、興味深い説話を採録、出典を明記するものだが、偽書の疑いも濃い後南朝関係の記事もあり、読本の祖都賀庭鐘もこの本を便利に使っている。

 高橋さんは、私の「江戸文学」40の論文や、「江戸の文学史と思想史」も読んでくださっている由。ジャンル分けを文学史の通例とする行き方から、サムライの文学・文化というより本質的なジャンルを提案してきた私としては、いい流れがきているなあとほくそ笑むこと頻りの連休の一日であった。
posted by 雑食系 at 18:41| Comment(2) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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